「玄関を入ってすぐのところの3畳の部屋には竹刀掛けがあり、父の木刀と竹刀が3、4本掛けてありました。」

「そこに、子供用の竹刀が一本加わったのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。竹刀は左手の小指で持ち、右手は添えるだけだということも聞いたことがあったので、父のまねをして竹刀を振ってみることにしました。」

「竹刀の持ち方は、教えてもらっていたのですか」と町会長。

「教えてもらったということではなく、日常の会話の中に竹刀の持ち方の話があったのを思い出したのです。」

「なるほど」と町会長。

「『日本刀は先端から10センチぐらいのところを使うのだ』というような話も聞いています。」

「お父さんは、剣道の話をよくしたのですか」と町会長。

「父は、テレビで時代劇を見るのが好きだったので、剣術に関する話を聞く機会がありました。」

「眠狂四郎の円月殺法のような番組が好きだったのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。それで、時々剣道の話になるので、竹刀の持ち方とか、足の運び方などが、知らない間に知識としてあったのです。」

「なるほど」と町会長。

「それで、竹刀を2、3度振ってみました。そのとき、ふと、もし、父と立ち会ったら、どうすれば勝てるのだろうかと考えたのです。」

「剣道2段のお父さんに勝つ方法を考えたのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。父の方が体が大きいので、面を打ってくるのを待って、一歩踏み込みながら小手を打つしかないと思いました。」

「それで、どうしたのですか」と町会長。

「ちょうど、父の手が来る高さの小枝を見つけて、一歩踏み込みながら打つ練習をしたのです。」

「その練習を毎日したのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。練習を始めて2、3週間経ったとき、父が『秋山先生のところに行く前に、ちょっと練習しておこうか』と言って、竹刀を2本持って来たのです。」

「渡辺さんが考えていた通りの展開になったのですね」と町会長。

「おっしゃる通りです。父は、竹刀の持ち方と足の運び方を教えてから、『好きなように打ってきていいから』と言ったのです。」

「防具は付けないで、立ち会うことになったのですか」と町会長。

「おっしゃる通りです。剣道2段とは言え、警視庁の猛者と毎月練習しているくらいですから、子供相手に防具は要らないと思ったのでしょう。」

「なるほど」と町会長。

2021/5/11

<筆者の一言>
『体重が変動している』のは明らかなので、いつどこで体重が減るのかという疑問が筆者にはあった。息子が体を動かすのは通勤時間帯なので、会社から帰ってきて体重を測れば、きっと減っているに違いないと推定していた。

ところが、会社から帰って体重を測ると、全く変わっていなかった。この話を聞いて、『やっぱり、基礎代謝が問題なのだ』と思う人は多いかも知れない。しかし、筆者は、会社で昼食に食べる量が多すぎると推定した。<続く>

<筆者の一言(2)>
昨日、梅澤さんに電話をして、『5月は、どうですか』と聞いてみた。梅澤さんは『相変わらず、忙しいです。ゴールデンウィークの即売会もあって5月は忙しいです』と若々しい声で答えた。『それじゃあ、試合は秋ですね』と言って電話を切ろうとしたら、すかさず『調子はどうですか』とさぐりを入れてきた。『記憶力が良くなっています』と言うと、少し会話に間ができた。梅澤さんは、なにか隠し事があるのではないかと感じたようだ。そこで、『動体視力も体力も、この前試合をやったときから上がり続けています』と付け足した。

<筆者の一言(3)>
父がなぜ2段なのかに関する話を1度したことがあるのを思い出した。父は『筆記試験ができない』と言ったのだ。弁護士資格を持っていたくらいだから、筆記試験ができないはずはない。高段者になると中国からの刺客に発見される可能性が高いと思ったのだろう。

警視庁の猛者と毎月試合をしていたのは、万一、発見された場合にそなえてのことだったのだろう。そう考えると、国士舘の女子大生に負けて、『剣道は棒振りダンスだから』と言った理由が理解できる。小刀は定期的に研師に手入れをさせていたようだ。孟宗竹を空中で3つに切る技も練習し続けていたに違いない。

2024/4/26